小澤 由美


Ishihara Hidekazu Kobo 石原英和工房

どこまでいっても追いつけない、父と母の背中を、ずっと見つめながら。

「子どもの頃は、絶対に紙漉きなんてやらないって思ってました」と笑いながら、偉大な両親の背中を追いかける。伝統工芸士・石原英和氏と貴美子氏の長女で、紙漉き歴は10年。縦揺りに細かな横揺りを加えながら紙を漉くその眼差しは、英和氏の瞳によく似ている。

紙漉き業の家に育ち、楮を煮る匂いも紙を漉く音も、ごく当たり前の日常だった。それでも簀桁だけは、触れてはいけない神聖なものだったという。40歳を過ぎてから門を叩き、生まれて初めて簀桁を手にした。紙漉きの世界では遅咲きだが、叩いたのは他でもなく自宅の門。「今まで経験した仕事とは違いました。私の生業はこれかもしれないと、紙を漉いてみて初めて気づいた」。簀桁を揺らすしなやかさや職人の勘のようなものが、遺伝子レベルで組み込まれているのかもしれない。

「到底追いつけないけれど、いつか父や母のような紙漉きになりたい」。今日も目の前の貴重な一枚に、まっすぐ向き合う。

プロフィール


岐阜県美濃市生まれ。伝統工芸士の石原英和氏と貴美子氏の長女として生まれ育つ。就職、結婚・出産を経て、 子育てがひと段落した2010年に、美濃市の手すき和紙研修生募集に応募。美濃和紙の里会館で働きながら市原智子氏に師事する。2013年より、石原英和工房へ入り、両親と共に紙を漉く。「本美濃紙保存会」研修生。